これは未来の将棋界のお話です。
将棋の世界にAIが台頭!
20世紀後半に将棋界にAIが登場しましたが、その棋力は拙く「AIが人間を超えるはずがない」との見方が大半でした。しかしAIは、その後急速にその実力を伸ばし、21世紀初頭には、プロ棋士でもAIに勝てなくなりました。
その後もAIは進歩を続けていきました。
そして、22世紀には…
2102年7月19日• 名古屋
名古屋市中村区のミッドランドスウェア25階の名古屋将棋対局場で、「藤井聡太永世8冠生誕100周年」を祝して記念対局が開催されています。
対局者は藤井宗桂新四段(藤井聡太の孫)VS 駒形角兵衛名人。
当初、東京の将棋会館で実施される式典でしたが、昨年の第二関東大震災によって東京将棋会館が倒壊したため急遽名古屋での開催となりました。
奇しくも藤井聡太の生誕地愛知県瀬戸市から電車で1時間弱の地です。
量子コンピュータの導入
本局は、史上初の量子コンピュータによるAI評価値を用いたネット放映がされることでも注目を集めています。
つまり、対局者が一手指す毎に、量子コンピュータが局面を評価して形勢判断(先手、後手の勝利確率)を示します。
例えば、先手:後手の評価値が65:35なら先手優勢となります。
前世紀においても、従来型コンピュータを用いたAIによる将棋というゲームの研究が進められました。
しかし、局面の数があまりにも膨大なため完全解析には至りませんでした。
将棋の局面の数は、ボクの概算(この記事の最後の 注1️⃣)での最小値でも10^60(10の60乗)通りです。現在の最新コンピュータは1秒間に10億(=10^9)局面程度解析できます。 よって全パターンを読み切るには10^51秒、1年が10^7秒のオーダーですから、全ての局面を解析するには10^44年ぐらいかかります。計算可能ではあるけど、現実的な時間では不可能に思えます。
将棋というゲームの勝敗(又は引き分け)は確定している(注2️⃣)けれど、解析不能でした。
AIの飛躍的な進歩
ところが、22世紀最初の年にあたる西暦2101年、量子コンピューターの出現により、将棋の局面の解析が一挙に進展しました。
2718281• • • 08975(65桁の数字)通りの全ての局面が完全に解明されたのです。
将棋の結末は以下の4通りです。
①先手の勝ち(後手の負け)
②後手の勝ち(先手の負け)
③千日手(同一局面の無限ループに入り勝負がつかない)
④持将棋(お互いの王が相手の陣地に入り、どちらの王も詰まなくなる)
そして、全局面が完全解析がされたことにより、将棋は、両対局者が最善手を差し続ければ、千日手になることが判明しました。
このような情勢のもとで、藤井宗桂新四段と駒形角兵衛名人の対局が始まりました。
対局開始!
初期局面での、量子コンピュータの評価値は50:50です。この評価値は千日手を示しています。
先手 後手
先手の藤井は盤側のお茶に口をつけてから、初手26歩と指しました。
評価値は50:50のままです。
藤井の11手まではこの評価値が続きました。
ところが、駒形が12手目に73桂とすると評価値は突如として100:0(藤井勝ち)となりました。
その後AIの評価値は、78手までに、2つの局面で 0:100、4つの局面で 50:50となりました。それ以外の全ての局面では100:0を示しました。
79手目以降、113手で駒形が投了するまでは、100:0 が続き藤井四段が押し切りました。
結局、量子コンピュータの評価値は「100:0」、「50:50(千日手)」、「0:100」の3通りしか示しませんでした。
これは量子コンピュータが全ての局面の勝敗(引き分けも含む)を完全に解析していることの証左であります。
この状況は予め予想されていたことではありますが、実際に目の当たりにしてみると衝撃的でした。
また、ネットTVや地上波でこの対局を観た視聴者から将棋連盟に対し、「興醒めだ!」、「評価値が3通りしかないのは意味がない」等の量子コンピュータ評価値に批判的な意見が数多寄せられました。
将棋連盟においては、放送機関に対し評価値放映を禁止する等の何らかの対応を迫られることとなりました。
そして、日本将棋連盟の放った妙手とは…
(後編に続く)
▼後編
↓ ↓
【SF】22世紀の将棋(後編) 〜AIから人間知力への回帰 - こに〜 の ざれごと
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(記事中注釈の説明)
(注1️⃣ ) 〜将棋の局面の数
ボクの荒っぽい概算の結果では、将棋の全ての局面の数は、
『10の60乗〜10の90乗。
どんなに多く見積もっても10の100乗未満だろう。』
▼計算の概要
81のマス目がある。先手の王の置き場所は81通り、後手の王は残りの80通り、よって2枚の王の局面は、81x 80=6480通り、次に2枚の飛車の置き方は、1枚目が残り79マスに、(飛車は龍としても置ける、また、先手の駒として置くか後手の駒として置くかの2通りの置き方がある)79x4通りと、先手の駒台もしくは後手の駒台の2通りを加え(79x4+2)通り、2枚目の飛車は1枚目の飛車が駒台にない時は(78×4+2)通り、1枚目の飛車が駒台にある時は、盤面はマス目が一つ多く空いているので、(79×2+2)通り、但し、駒台に先手、後手ともに飛車が一枚ずつある時はダブって数えているので1を減じる。そしてこれらの場合の数を乗じていく…… (以下略)
(注2️⃣) 〜将棋の勝敗は確定済
下図のような、結果が自明である3マスや4マスの盤面から出発して、マス目と駒を増やして複雑にしていったものが、実際に指されている将棋(図右下)です。
右下の盤面は他の3つの盤面よりマス目と駒が多くなっていますが、所詮は有限の数です。また、麻雀のようなランダムな要素がなく、全ての情報が開示されています。だから、原理的にはすべてを調べ尽くすことが可能だと思います。
前述の通り、将棋の結末は以下のいずれかになります。
①先手の勝ち、②後手の勝ち、③千日手、④持将棋。
そして、将棋の最初の盤面を完全に解析すれば、上記4通りのうち何れの結果になるかが判明するはずです。