こに〜 の ざれごと

日常生活の小さな疑問や発見をアイロニカルに 綴りました… っうか単なる戯言です。

【SF】22世紀の将棋(後編) 〜AIから人間知力への回帰

 

 

 

  ※この記事は未来(西暦2102年)のお話です。【前編】はこの記事の最後にリンクあり。

 

2102年7月〜将棋界の危機

21世紀になって将棋界は、稀有の天才藤井聡太の出現とAI評価値によって普及が大幅に進みました。将棋人口は、この100年間で500万人から2000万人へと4倍に増加しました。
ところが、22世紀になると量子コンピューターの進化により、将棋が完全に解析され、両対局者が最善手を差し続ければ結末が千日手になることが判明、また、全ての局面においても、AIの形勢判断で結末が確定するようになりました。
そのため、将棋というゲームが味気ないものになり、22世紀になって将棋人口は減少に転じました。
日本将棋連盟はこの対応に苦慮しています。

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ここまでの状況は前編(この記事の最後にリンクあり)に記した通りです。
本稿はこの続編となります。

 

 

ルール改訂に着手するも…

日本将棋連盟はこの苦境を乗り切るべく「将棋規定及び評価値改定審議委員会」を設置して対応に着手しました。

同審議会ではいくつかの改訂案が出されました。

例えば…

▶︎先手が初手を指した後、後手は2手続けて指し、以降、先後1手ずつ指し続ける。

▶︎コンピューターにより乱数を発生させ、先手の何れかの歩を一枚取り除く

▶︎1筋から9筋にワープできる(将棋盤を筒状にする)こととする。

等々…

 

ところが、どの改訂案も、量子コンピュータにより勝負の結末は確定してしまいます。

将棋は「二人零和有限確定完全情報ゲーム」という種類に分類されるゲームです。なので、もはや将棋とは言えないまでのルール改変をしない限り完全解析可能なのです。

 

審議会の結論としては、将棋のルール改定は断念して、現行の量子コンピュータの評価値(0:100,100:0,50:50の3通りのみ)を見直していくこととなりました。

 

 

 

評価値を見直す

現在(2102年)人間とAIが対局すると100%AIが勝利します。

このことに対し、審議会は「人間の敗因のすべては技術のなかにあり、それは技術を磨くことによって必ず解決できる」と考えていましたが、これを改めることにしました。

即ち、

①将棋においてAIに人間が伍していくことは不可能

②人間は間違える動物である

以上を前提に新たな評価値を定めることとしました。

 

 

新評価値の制定

審議会は二つの新しい要素を評価値に反映させました。

新しく導入した要素とは以下の1️⃣、2️⃣です。

 

1️⃣レーティング(棋士実力)

レーティング導入の目的は…

同じ局面であっても、各棋士の勝率は棋士のスキルによって異なります。

例えば投了局面から、将棋初心者が勝者側をもってプロ棋士と指し継いだとしても初心者は容易にプロ棋士は勝てないでしょう。

この棋力に依存する勝率部分をレーティングで補正しようというものです。

 

レーティングとは…

過去の対局成績によって各棋士の実力を数値化したものがレーティングです。平均レーティングを1500(数値が大きいほど棋力が高い)とし、対局者のレーティングの差から両者の勝率が計算できます。


79年前(2023年)のレーティングのランキングは下表の通りです。

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レーティングから特定の対局における両棋士の勝利確率が計算できます。

例えば、レーティング差が20なら上位者の勝率は53%、同様に100なら64%、300で85%となります。

 

2023年当時の藤井聡太7冠と佐々木大地七段のレーティングはそれぞれ、2093、1863です。レーティング差230ですから藤井7冠の勝率は79%となります。(佐々木大地が先手で指し手0の局面)

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レーティングを評価値に反映させると、この対局開始の一礼をした時点で、評価値は既に藤井優勢(勝率79%)となります。

 

 

2️⃣棋力に基づく推定指し手

これは21世紀初頭の将棋のネット中継の評価値です。

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現局面での評価値は、後手の勝率99%ということになっていますが、これは後手が最善手(Best)を指すことが前提になっています。次善手以下の候補手を指すと大きく形勢を損ね敗勢となります。

しかし、AIの推奨する最善手(同歩)が発見し難い「神の一手」であったなら、後手勝率99%というのは現実的な勝率とはいえません。

 

別の実例を見てみましょう。

下図は2023年、藤井7冠と佐々木大地7段のタイトル戦での佐々木7段手番での評価値です。

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後手勝率65%の評価値ですが、これ以外の指し手なら佐々木不利となってしまいます。

 

このような評価値の不合理を是正しようというのが、「推定指し手」の導入です。

 

推定指し手は、棋士の過去の棋譜から得られた棋風や棋力から算出します。なので、各指し手を選択する確率は棋士ごとに異なります。

そして、得られた各指し手の確率にそれぞれの勝率を積算することで最終的な「勝率期待値」を決定します。

 

 

2103年3月、審議会は、以上の二つの要素を反映させた改正評価値(2103年度版)を発表しました。

謳い文句は『棋士の実力と局面の難易度を反映をさせた現実的な評価値』です。

 

 

 

新評価値(2103年版)での評価

この新評価値方法で実際に特定棋士のある局面を評価してみます。

 

下図は、前述の棋聖戦、75手目(佐々木の出番)の局面での先手勝率です。

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新評価値は「先手(佐々木)勝率期待値」は34%。

つまり、この局面での藤井7冠の勝率は66%!

 

うん、妥当な評価ですね。

 

 

将棋は永遠なり

人間の知能が不完全であることを受け入れたうえで、今回の評価値改定により、将棋というゲームが、『いかに悪手を避けて最善手との乖離を小さくするか』を競い合うゲームとしてこれからも親しまれていくこととなりました。

 

 

 

▼前編

【SF】22世紀の将棋(前編) 〜AIの台頭と日本将棋連盟の憂鬱 - こに〜 の ざれごと