小学校の同級生に敏夫という子がいました。皆んなからは「とし君」と呼ばれていました。家が近くだったのでよく一緒に遊びました。
とし君は魚や蝶の名前はよく知っていましたが、勉強は得意ではありませんでした。
先生に質問されて、何も答えられず俯いて顔を赧くして立ちつくしていたことが思い出されます。
そんなとし君ですが…
小学校3年生の図画工作の時間に、自由な絵を描き一言添えるという授業がありました。
そして、完成したクラス全員の作品が教室後方の壁に掲示されました。
その中にとし君の作品を見つけボクは驚嘆しました。今でもその画像が鮮明に心に刻まれています。
その画像はこんな感じです。
研ぎ澄まされた観察力による松ぼっくりの精緻なデッサンに並外れた才能を感じます。
添えられた2行詩では、最初の行で静寂の中に唯一の音が存在する様子を示しています。そして、次の行で、自然の生命力を表現しています。
とし君は、松ぼっくりというちっぽけな対象から、静寂と変化という対極にある二つの心象風景を感じとったのです。
なんて繊細な感性なのだろう。
とし君はサヴァン症候群だったのかもしれません。それとも、とし君には神が宿っていたのだろうか。
とし君は、小学校を卒業すると遠くの街に引っ越してしまいました。
とし君… 今頃どうしているのかなぁ。
※ サヴァン症候群とは自閉症などの精神障害がある一方で、芸術や音楽など特定の分野に突出した才能を持っていることを指します。