⚠️本稿では「^」を使って累乗を表記します。たとえば,2^3 は 2の3乗 (2x2x2)を表します。
難問とコンピュータ
これまで何度かパソコンを使って難問に挑戦しました。
しかし、いずれの難問も、ボクのパソコンでは千年かけても解答に辿り着けないような驚愕の大数を取り扱った問題でした。(この記事の最後にリンクあり)
本稿の難問も、これまでと同様の結果が強く推定されます。
よって、今回は「難問に挑戦」ではなく「難問を鑑賞」という見地での投稿になります。
その難問とは…
1769年に発表された「オイラー予想」の真偽を問うものです。
まずはオイラー予想を提唱したレオンハルト•オイラーを紹介します。
オイラー予想をを提唱したレオンハルト•オイラー(1707〜1783年)は、言わずと知れた18世紀のスイスの天才数学者です。数学者としての膨大な業績と、後世の数学界に与えた影響力の大きさから、19世紀のガウスとともに「数学界の二大巨人」と呼ばれています。数学の諸分野での膨大な研究のほか、医学・化学・天文学などでも功績があります。
オイラーの世界一美しい公式
下図は、17世紀にフランスの数学者フェルマーが発表した予想です。後にこの予想は「フェルマーの最終定理」と呼ばれるようになりました。
オイラーはこの命題の n= 3 の場合を証明しました。
つまりオイラーは、
x^3 + y^3 = z^3
を満たす自然数の解 (x, y, z) は存在しないことを証明したのです。
※全てのnにおけるフェルマーの最終定理は、1995年、英国オックスフォード大のアンドリュー・ワイルズ教授によって証明されました。
さて、ここからが本題です。
オイラー予想
オイラーは、、フェルマーの最終定理(n=3の場合)を拡張して、
x^4 + y^4 + z^4 = w^4
を満たす自然数の解 (x, y, z, w) は存在しない。
と予想しました。これがオイラー予想です。
※オイラーは、X^5+Y^5+Z^5+W^5=V^5の5次式についても同様の予想をしています。ただし、これには1966年、ランダーとパーキンによって、(X,Y,Z,W,V)=(27,84,110,133,144)という反例が見つけられています。
オイラー予想は真か?
オイラー予想が真であることを証明するのはかなり難解です。
しかし、偽であることをを証明するには反例を一つだけ示せばいいのです。
即ち、x^4 + y^4 + z^4 = w^4
を満たす自然数(正の整数)の解 (x, y, z, w)を1組見つければいいのです。
オイラー予想の反例の探索
オイラーの提唱以降、比較的小さな自然数では反例を見つけることができず、長い間オイラー予想は正しいと信じられてきました。
しかし、1988年にハーバード大学のノーム・エルキーズが、反例を発見しました。
エルキーズは、楕円曲線とコンピュータを使い難解な4次のオイラー予想の反例を見つけ出したのです。
オイラー予想は間違っていました。
エルキーズの反例
エルキーズが見つけた反例は、
X=2682440
Y=15365639
Z=18796760
W=20615673
反例が正しいかを確認します。
x^4=2682440^4=51774995082902409832960000
y^4=15365639^4=55744561387133523724209779041
z^4=18796760^4=124833740909952854954805760000
上記3式の和と下式より、
w^4=20615673^4=180630077292169281088848499041
確かに
x^4 + y^4 + z^4 = w^4
となります。
200年以上未解決となっていたオイラー予想は否定されたのです。
エルキーズも天才だ!
これまでに投稿した難問は、高性能のコンピュータを並列的に稼働させ虱潰しに探索するという力技で解決することができました。
一方、オイラー予想の反例を発見したエルキーズの手法は華麗で明快です。
巧妙な式変形により命題を曲面の有理点を求める問題に変換、更にパラメータを用いて2次曲線の有理数解を求める問題に帰着させました。
ここからコンピュータを用いて解を求めています。同時にこの解法で解が無限にあることも証明してしまいました。
数学は、稀有の天才によるブレークスルーによって進歩するのですね。
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