違和感のある表現をいくつか取り上げてきたが、今回は多くの人から賛同いただけそうな、
「よろしかったでしょうか」
について考えてみた。
この言い回しも「一万円入ります」と同様、ファミレスやコンビニなどの店員からよく聞かされる。
ということは、この文言は、大手チェーン店による業務の定形化を目的とした社員教育から生み出されたと推定される。
いわゆる「業界用語」かもしれない。
▶︎この表現の聞き手としては、
「おいおい、あんたとは今初めて話すんだよ」
と反駁したくなるのが率直な感情だろう。
つまり何も前提となることがらがないのに、過去形で尋ねられても戸惑ってしまう。
正しい用法は、
1週間前に裾上げを頼んでおいたズボンを取りに行った際、
「お客様のズボンの裾はダブルでよろしかったでしょうか」
のように過去の事象に触れたものであるべきだ。
▶︎また、この問いかけに対して、
「よろしくなかった」
と過去形で否定したとしても、言外に、
「済んだことは仕方ないでしょ」
という色合いを匂わせ、事後承認を押し付けられたようないやな気分になる。
ちょうど、バレンタインデーのプレゼントにKitKatをもらったような不誠実さを感じてしまう。
▶︎店員(話し手)の立場からも考えてみた。
「よろしかったでしょうか」は
客(聞き手)側に対する確認の依頼である、とするのが自然な解釈だろう。
でも、店員のこの言葉の趣旨を最大限善意に解釈してやれば、
「お客様のご希望は重々承知致しております。ただ、私の認識がこれで間違いないか今一度確認させていただきます」
つまり自分(店員)の解釈を再確認するという謙虚な配慮が働いているということである。
んん…、無理がある。おそらく違うだろう。
店員は無感情でマニュアル通り事務的に発声しているのだろう。
その抑揚のない声調がそれを裏付けている。
でも、何年かすれば、この業界用語(というより方言ですな)が「標準語」に昇格して、誰も違和感を持たなくなるのかもしれない。
…いかにも気持ち悪い。